ある日、湘南事業所に一通のメールが届きました。
送り主は、横浜市立旭小学校6年2組の担任の先生。
内容はこうでした──「来年入学する1年生のために、ダンボールで遊具を作って学校に残したい。子どもたちの願いを、どうか力を貸して叶えてほしい」。
湘南事業所にとって、工場見学自体は珍しいことではありません。お客様、仕入先、地域の方々から希望があれば、都度お受けしています。けれど、わざわざ横浜から小学生がバスに乗ってやってくるというのは、少し特別なことでした。
城所所長はメールを読んで即断しました。「受けよう」と。先生の文面から伝わってくる"熱"が、その決め手だったといいます。
0分に詰め込んだ、
"本気"のプログラム
11月4日。秋晴れの湘南事業所に、小学6年生0名と先生2名、計0名がやってきました。
プログラムは80分。限られた時間で最大限の体験を届けるために、児童を2班に分けて同時進行する構成が組まれました。
1班は工場見学。原紙の保管庫から加工ライン、組立工程まで、強化ダンボールができあがるまでの全工程を歩きます。自分たちの身長を超える原紙の束。コンベアの上を流れていくシート。普段「箱」としか見ていなかったものが、どれだけの工程を経て形になるのか。子どもたちの目は、ずっとキラキラしていました。
もう1班は座学と体験。強化ダンボールと普通のダンボールの違い、波の向き(フルート)と強度の関係を、実験を通じて体感します。そしてハイライトは、強化ダンボール製イスの組み立て。パーツを手渡された瞬間、子どもたちの手が一斉に動き出しました。
完成したイスに座って、全員で記念撮影。そのイスが自分の体重を支えている──紙でできているのに。この驚きの表情が、強化ダンボールという素材の可能性をいちばん雄弁に語っていました。
6年生は遊ばない、
と思っていた
プログラムの中盤、2階の展示スペースに移動したとき、予想外のことが起きました。
そこには強化ダンボールで作られた遊具──すべり台、シーソー、木馬──が展示されています。受け入れ側としては、「まあ、6年生だし、さすがにこれで遊ぶことはないだろう」と思っていました。
ところが。
6年生たちは、遠慮のかけらもなく遊具に飛び乗りました。すべり台を何度も滑り、シーソーで歓声を上げ、木馬にまたがり──気がつけば遊具の取り合いになっていたのです。
「6年生はこんな遊具で遊ばないだろうと思っていたら、おもいっきり遊んでいて驚きました」
── 湘南事業所スタッフ12歳の子どもたちが見せたこの反応は、ある意味で「答え」でした。頭で理解する「強いダンボール」ではなく、体で感じる「すごいダンボール」。乗っても壊れない、滑っても平気、何度使っても歪まない──言葉で説明するより、遊んでもらうのがいちばん伝わる。そのことを、子どもたちが証明してくれたのです。
「ワゴンセール」と化した
端材コーナー
見学の最後に、強化ダンボールの端材で動物やさまざまな形にカットしたものを無償で提供しました。「好きなだけ持って帰っていいよ」と声をかけた瞬間、会場の空気が変わりました。
子どもたちがいっせいに端材コーナーに群がり、まるでワゴンセールのような光景に。星形、恐竜型、幾何学的な端材──大人から見れば「ただの端材」でも、子どもたちにとっては宝物でした。両手いっぱいに抱えて、リュックサックに詰め込んで。
この光景を見ていた城所所長は、後にこう振り返ります──「ああいう目の輝きを見ると、やって良かったと心から思う」。
見学が終わっても、
物語は続いた
工場見学は80分で終わります。でも、この日から始まったつながりは、そこで終わりませんでした。
見学後、担任の先生から定期的にメールが届くようになりました。子どもたちが工場見学で学んだことをもとに、学校で実際にダンボール遊具を作り始めたこと。卒業文集に「総合学習でいちばん心に残ったこと」として工場見学のことを書いている子がいること。11月には教育委員会主催のイベント、1月には地域のイベントで、ダンボールの魅力を発信してくれたこと。
そして、強化ダンボールで作ったお礼状や作品の写真も届きました。
子どもたちからのメッセージ
見学後に届いた寒中見舞いから、いくつかをご紹介します
ダンボールのことを教えてくれてありがとうございます。すべり台や木馬をもとにして滑り台作りをしています。長島梱包さん ありがとうございます。
強化ダンボールのことについて教えてくださり、色々なダンボールの種類などを知ることになりました。体調に気をつけてすごしてください。
以前はダンボールのことをくわしくおしえてくださりありがとうございました。すべり台を作ってくださって、木馬を作ってくださって、自分でも作りたくなりました。
みなさんのアドバイスのおかげで滑り台の設計もできてきました。
昨年は大変お世話になりました。ダンボールのおなかの中についてくわしく教えてくださり、いつもありがとうございます。
お元気ですか? 昨年はダンボールの事をいろいろおしえてくださりありがとうございました。今年もよろしくお願いします。
一通一通、手書きの文字で丁寧に綴られた寒中見舞い。「ダンボールのおなかの中」という表現に、思わず顔がほころびます。波形の断面を見て「おなかの中」と感じた、その感性がまぶしい。
担任の先生からのお手紙(要旨)
卒業まで0日を切った時期に届いたお便りには、こう綴られていました──子どもたちにとって皆様との出会いは、学習を進めていく原動力になっただけでなく、人とのつながりの大切さ・優しさ・温かさを感じることのできる時間でもあった、と。
卒業文集に総合学習の思い出として工場見学のことを書いている児童がいること。2月27日の幼保小交流会では、近隣の幼稚園から0名の子どもたちを迎え、強化ダンボールの遊具で一緒に遊ぶ計画を進めていること。その報告は、見学を受け入れた側にとって何よりの「成果」でした。
さらに驚いたのは、卒業式への参列のお誘いまでいただいたことです。たった一度の80分の工場見学が、卒業式に招かれるほどの関係に育っていた。
ひとつの区切り、
そして種は残る
今年の3月、このプロジェクトを支えてくれた担任の先生が退職されました。
先生がいなければ、あのメールは届かなかった。先生の「熱」がなければ、城所所長も即断はしなかった。38人の子どもたちがバスに乗って湘南まで来ることも、強化ダンボールの椅子に座って歓声を上げることも、寒中見舞いに「ダンボールのおなかの中」と書くことも、なかった。
たった一通のメールが、これだけの物語を生みました。
「あと十何年か経ったら、誰かナガシマに入社してくるかもしれませんね」
── 湘南事業所スタッフ冗談めかした一言ですが、あながち夢物語ではないかもしれません。
12歳の子どもたちの記憶に、「ダンボールってすごい」「あの工場、おもしろかった」という体験が刻まれている。その記憶は、10年後も、20年後も、ふとした瞬間に蘇るかもしれない。就職先を選ぶとき、ものづくりの道を考えるとき、あるいは自分の子どもに「昔、すごい工場に行ったんだよ」と話すとき。
企業が地域とつながるということは、売上や取引とは違う次元の「資産」を築くことなのだと、この出来事は教えてくれます。目に見える数字にはならないけれど、確かにそこに残るもの。それは「信頼」であり、「記憶」であり、もしかしたら「未来の仲間」なのかもしれません。
100年企業が、
次の100年に蒔く種
1926年、創業者・長島國治は大八車一台で商いを始めました。あれから100年。ナガシマグループの事業は梱包から物流、強化ダンボール製品へと広がり、社員は0名を超えました。
でも、変わらないものがあります。「目の前の人に、誠実に向き合う」こと。100年前に國治が一軒一軒、取引先を回ったように、今も湘南事業所は一人一人の来訪者を迎えています。
0人の6年生が持ち帰った端材。その一片一片が、ナガシマグループの「次の100年」の種になることを、私たちは信じています。